
~まだアレルギーとは無縁で、少食ながら、何でも口にできていた20代の頃~
学生時代を終えた後、私は都内にある、外資系の某企業に就職した。
初日の時点で「ブラック企業」だと気がついた。
朝8時半に出勤した新入社員たちに上司が夕方頃、「まさか、定時に帰らないよね?」と、平然と言った。会社を出る頃には22時を過ぎていた。
面接のとき、上司になる人に「一日8時間で無理な残業はさせないし、週休二日だから、子持ちの女性も長く働けている」と言われていたし、求人サイトにも「労働基準法を無視した非人道的な勤務を強制します」とは書かれていなかったのだが、実態は違った。新入社員は毎日、早朝に出勤し、終電で帰る日々を強いられた。例外は初日だけ。
休みは10日に一度程度で毎日、非常に忙しく、お昼休憩を取ろうとすると周囲の人に嫌な顔をされたり、食事中に電話がかかってきて職場に戻されたりした。
その上、同僚や上司とは価値観が違い過ぎた。アルバイトやパートとして働く人々を「道具扱い」する20代の女性もいた。
入社から間もなく、私は「ここに長くいたら、虚弱体質の私は間違いなく体を壊す」と感じた。
同時に、「ここにいたら必要なスキルと実績を得られない」とも思えた。
私は当時、「最終目標は在宅ライターで、今の職場に勤めながらチャンスをうかがおう」と考えていたため、他事が全くできないと確信させられた、この職場にヘキエキし、速やかに転職活動を始めた。
職場の人達には毎日、笑顔と勤勉に働く姿を見せつつ、「転職先が見つかるまで、ここにいよう」と考えていた。
当時はロクに眠れず、心身共に疲れ切っていたし、食事を用意する時間も気力も、食べるヒマもほとんどなかったので、ブラック企業に勤務していた、この時期も、今と同じく一日一食だった。
毎朝、会社近くのコンビニに早足で寄って、スティック状の小さなバウムクーヘンを一本買い、職場に着くまでの数十分の間にやや早めに歩きながら急いで食べる、という日々だった。今、思えばめちゃくちゃな食生活だった。
そんなある日のお昼。
気軽に話せるようになったアルバイトの方と、職場近くの某ハンバーガー・チェーン店へ行った。確か、相手が「ここで」と言ったので。
私達が購入した物は何の変哲もないハンバーガーだった。
でも口にした瞬間、私は「この世にこんな美味しい物があったんだ!」と思った。

↑本当に、こういう平凡なハンバーガーだった。
友人は「ただのバーガー」くらいにしか考えていなかったのか、さっさと口に運んでいた。
ずいぶん経っているのに、当時の驚きを今でも覚えている。
毎日、ロクに何も口にできず、心身ともに苦しんでいるときは、ただのハンバーガーが極上の味に感じられる場合がある、と、あの会社のおかげで学べた。本当に美味しかった。
安物のハンバーガーを軽視し、「不味い」とか、「安っぽい。ジャンク品」とか言っている人がいると、今でも「当時の私にとっては衝撃を受けるほど美味しい物だった」と思えるときがある。
ちなみに先に出した20代の女性。
一緒にハンバーガーを食べに行った友人と転職後に外出したとき、「彼女なら心身を病んだみたいで、しばらく見てない」と言われた。
退職から10年近く経った頃、たまたま近くを通ったので立ち寄ってみると、会社は無くなっていた。